HOME『通訳翻訳ウエブマガジン』【2008年12月・2009年1月合併号】
未来の一般翻訳にも起こる翻訳インフラ革命

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■翻訳メモリーツール登場による変化

ローカリゼーションというビジネスモデルが台頭

 

 Trados(Trados 社がSDL社に買収されるまではこのように表記)が、実際のジョブで使われるようになると、翻訳のビジネスモデルにさまざまな変化が生じた。

 

(1)「マニュアル翻訳」から「ローカライズ」へ移行

 

 90年代の中ごろまで、コンピュータや機械、自動車のマニュアル類の翻訳は「マニュアル翻訳」という範疇で呼ばれていた。ところが、コンピュータが大型汎用機中心の時代からパソコンの時代に移行するにつれて、ソフトのパッケージ化が容易にできるようになり、また、OS として Windows が主流になると、Windows に対応するソフトウェアが大量に開発された。勢いの良かったのが外資系のソフトウェアで、このため英語から日本語への翻訳が増加したのである。このときから、コンピュータ関連の翻訳はローカライズ、もしくはローカリゼーション(現地語化)と呼ばれるようになった。そして現在では、自動車・機械類などの各種ドキュメントの多言語化は「ローカライズ」という呼称で定着している。

 

(2) MLV(Multi Language Vendor 多言語翻訳取扱業者)の登場

 

 日本の翻訳会社は、現在でこそいくらか異なるが、10年前は「英語から日本語」「日本語から英語」の翻訳が主流で、いわばSLV(Single Language Vendor 単言語翻訳取り扱い業者。日本の翻訳会社の多くはSLV) であった。英語以外の言語の翻訳依頼を受けても、それはあくまでも単一の外国語→日本語、もしくは日本語→外国語への翻訳のみであった。

 

 だが、マイクロソフト社のように1つの製品を世界中に販売するメーカーにとって、50ヵ国語の現地語化(ローカライズ)を自前で行っていたのでは、人件費も時間もかかってしまう。そこで、1つの案件の多言語化(数ヵ国語から数十ヵ国語程度のプロジェクトまでさまざま)を一手に行う業者ローカライザー(Multi Language Vendor)に、外資系企業の本社のローカライズ担当部門から多言語への翻訳が多く依頼されるようになった。

 

 この流れを受けて、英語から日本語へのローカリゼーションを日本で運営するために外資のローカライザーが10年ほど前にこぞって日本に進出してきた。ライオンブリッジ ジャパン(株)やエスディーエルジャパン(株)などである。ローカライザーが吸収・合併を繰り返して、現在は日本に進出している外資のローカライザーの数は減少している。

 

 

【表2】 翻訳メモリーツールのメリットとデメリット

  メリット デメリット
翻訳者側 *慣れれば作業の迅速化が図れる→翻訳メモリーツール指定以外のジョブでも利用できる。
*メモリー内のコロケーションを参照できる
*原文(完全マッチは自動的に翻訳画面に表記される)、翻訳画面、用語集をひとつの画面で見ながら作業できる。
*ツールによっては多額
*ある程度訓練して習熟する必要がある。便利さをすぐには実感できない。
*原則、1原文は1原文に訳さなければならないので、2文を1文に、あるいは1文を2文に訳すなどの操作ができない。
*完全一致のものも目を通すが報酬として評価されないことも。マッチ率が低いものもワード単価が下がる可能性がある。
翻訳会社側 *翻訳支援ツールの導入により受注増、大型プロジェクトの受注が期待できる。
*翻訳前のか、後処理などの作業が伴い、専門要員の採用が必要
*多くの翻訳メモリーツールのライセンスを購入するため多額の設備投資が必要。
*ツールに習熟していない翻訳者に対するサポートが必要。導入したてのころは、トラブルの解消法が大変だった。
クライアント側 *翻訳に関わるコスト削減が図れる。 *ドキュメントコンテンツの管理が複雑化してきた。


■IT関連の分野の翻訳で起きていること

オンライン翻訳が日常的に


★変化1 クライアントが翻訳用のサーバーを活用

 ほぼ7〜8年にわたって、IT関連の分野の翻訳は翻訳メモリーツールを使って翻訳業務が行われてきた。だが、ここ2〜3年新たな動きが起きている。メーカーが自社のサーバー上で、自社の製品のマニュアル類やウエブ情報などの翻訳・制作を行っているのである。つまり、翻訳者はAメーカーの仕事を行うときには、A社のサーバーにアクセスしてオンラインで翻訳を行う。サーバー上には、翻訳メモリ(原文と訳文のデータベース)、これから翻訳する原文、用語集などがそろっており、翻訳者は用意された環境の中で翻訳作業を行う。

 

 翻訳者が翻訳を完了すると、その情報は自動的にメールでチェッカーに伝えられ、チェッカーがチェック作業に入る。チェックが完了するとさらに自動的に翻訳会社やメーカーの担当者に「作業完了」がメールなどで伝わるという仕組みだ。このように徹底して自動化が図られるのは、翻訳物制作にかかる間接コストを極力削減する目的がある。この仕組みでは、翻訳会社は翻訳者やチェッカーを手配するだけだ。

 


★変化2 翻訳会社が独自の翻訳用の作業用インフラを持つ時代に

 広くグローバル展開している企業や、翻訳を要するドキュメント量の多い企業の場合は、上記「変化1」のように、自社で独自のサーバーをもち、自社で翻訳素材の管理を行うことが多いが、自社で手配するのは面倒というクライアントに対し、MLVなどの翻訳会社が自社でサーバーをもち、コンテンツ管理と翻訳業務をサーバー上で進めている。ライオンブリッジ社のインフラ「Freeway」&「Logoport」 はこの代表例だ。コンテンツ管理と翻訳・制作のコストダウンを企業にサービスとして提供するためだ。翻訳会社が独自に翻訳用のサーバーを導入するというケースは、欧米は早くから導入しており、今後日本も大手翻訳会社を中心として導入する企業が増えるだろう。

 



 オンライン翻訳シミュレーション 
「プロジェクトA」

 

 グローバル企業C社のドキュメント部では主力ソフトの大がかりなアップグレードを3ヵ月後に予定しており、ソフトウェアの開発とローカリゼーションが同時進行している。ローカリゼーションは20言語に及び、自社のサーバーで翻訳業務を管理している。プロジェクトごとにマネージャーがおり、Aプロジェクトはアイルランド、Bプロジェクトは米国、Cはチェコというふうに別々の国で管理されていることもある。サーバーで管理しているので、管理者がどこにいようと関係ないのだ。

 Aプロジェクトのローカライズがスタートした。20言語へのローカライズだが、東欧言語、アジア言語などタイプの異なる体系の言語があるので、MLVを使っても1社だけに委託すればよいというわけにはいかなくなる。実際、20言語のローカライズを3社に依頼した。プロジェクトが実際に稼働になると壮観だ。20言語の翻訳者がサーバー上で一斉に作業を開始する。むろんその姿が見えるわけではないが、大きなプロジェクトが始まると東の国の翻訳者から仕事が始まり、西の諸国へとサーバーのアクセスが増えていく。プロジェクトAだけでなく、その他もプロジェクトも世界中の翻訳者を使って進行しており、サーバーには世界中の言語の翻訳作業が進んでいるのだ。

 





<特別付録のご案内>
→翻訳と翻訳物を制作する現場では、さまざまなツールがすでに現場で活用されている。ライオンブリッジ社のワールドワイドのインフラ「Freeway」(ローカライズ業務管理用プラットフォーム)&「Logoport」(翻訳支援ツール)ご紹介記事をPDFでお読みください。原文は、『通訳・翻訳ジャーナル』2007年2月号特集「IT翻訳業界でひそかに進む 翻訳の最先端ワークフローとは?」に掲載された記事です。
(PDF 879KB)



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翻訳メモリーツール登場による変化


 

『通訳・翻訳ジャーナル』編集部

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