■他の分野の翻訳業界で起きていること
コスト削減をねらって翻訳会社がツールを導入する動きも
★今までは他の分野ではほとんど何も起こらなかった
10年かかってIT翻訳業界では、翻訳製品を制作するビジネスモデルが劇的に変わった。ところがそれに反して、他の翻訳分野は旧態依然としたままである。むろん多少の進化はある。原稿用紙はさすがになくなり、パソコンのワープロソフト(とりわけMicrosoft Word)のファイルで納品されるようになった。用語集がMicrosoft Excel で支給されるようなケースもある。だが、最近は企業全体でドキュメントをコンピュータで作成するようになったので、翻訳ドキュメントもWord やpdf 、PowerPoint などの電子データで支給され、メールで元原稿が送付されるようになった。だが、特許翻訳などの分野では機密扱いの文書という理由で、メールでの送付はご法度、依然としてハードコピーを宅急便で送るというところもある。
翻訳そのものは、Word (翻訳者によってはテキストエディタを使用)を原稿用紙がわりにしているだけの人が多く、さすがに辞書は電子データの辞書をインストールして、DDWIN やJammingといった辞書検索ソフトを利用している人が多いが、依然として紙版の辞書に頼っている人も少なくない。一般翻訳の世界は、概してクライアントも翻訳者もローテクである。
★翻訳メモリーツールやサーバーの活用を開始する一般翻訳の翻訳会社も・・・
最近、翻訳メモリーツールやサーバー上での翻訳作業とコンテンツ管理を行うシステムを導入するか、あるいは導入しようと真剣に検討している翻訳会社が少なくない。理由はいくつか考えられる。
(1) サブプライムローンをきっかけとした金融危機のため、翻訳会社そのものが何らかのコスト削減の方法を考えなくてはならなくなったことだ。翻訳単価を下げるという方法はもう限界にきており、これ以上下げてしまうともっとも要となる優秀な翻訳者を失うことになりかねない。そこで、用語統一の手間を省略(用語集の作成)、翻訳メモリを活用し、完全一致・類似文章の訳文の再利用、サーバーで管理して中間管理業務の削減、などを図ろうとしているのだ。
ひとつの例として、日本の翻訳業界最大手の(株)翻訳センターは、現在、社内と自社の仕事をしてもらう翻訳者が利用する翻訳メモリーツールを開発中である
(詳細記事→ http://www.tsuhon.jp/wordpress/?m=200807)。
(2) 翻訳情報のクライアントからの迅速なコンテンツアップ要求
翻訳コンテンツとしてウエブ情報の重要性が高まってきた。本社を外国におく多国籍企業は日本向けのホームページを、日本企業は日本サイトに英語や中国語等の言語サイトを置き、さらに現地にマーケットを確立しているような企業になると、完全現地語化のホームページまで用意している。
つまり、ウエブには翻訳されたドキュメントの量も質も増えてきたのである。企業がウエブに提供する情報の中には機械翻訳で行われているものもあるが、ある程度質を問う内容のものは、人間の手によって翻訳が行われている。それどころか、重要な内容については、襟抜かれた翻訳者によって日本語化や英語化などがなされている。
|
【ウエブに公開される翻訳済み情報<例>】
*新製品情報
*顧客向けニュース
*プレスリリース
*IR情報
*ユーザーマニュアル
*FAQ
|
|
ウエブ情報の特徴は、原則、オリジナルを変えたら同じ英語版、外国語版を迅速に変更しなければならないということである。英語版と日本語版の情報が異なっていると、どれが正しいのか閲覧者は迷ってしまう。企業が出す情報は「世界同時公開」が理想で、タイムラグがあるのは望ましくない。
このように量も拡大し質も多岐にわたっているものを、従来のように個別に翻訳コーディネーターが1件ずつメールなどで管理するのは作業が煩雑になり、「迅速に」という要求に対応できないばかりか結果的にコストがかかってしまう。そこで、サーバー上でオンラインで翻訳してもらい、用語集もクライアントに準じたものを活用、使用可能な翻訳メモリを利用してもらって、作業工程も自動化を図る、ゆくゆくはウエブコンテンツの翻訳管理はこのようなビジネスモデルが普通になっていくはずである。
日本だけで翻訳の仕事をしていると気づかないかもしれないが、5年前から米国などの翻訳会社は自社専用の翻訳作業用サーバーを設置し、金融情報など急ぐものは、翻訳者がオンラインで翻訳し、チェックもサーバー上で行って作業工程をサーバーのみで管理しているところがすでにあった。チェックされたもの、完成品となったものを翻訳者も後日見られるようになっており、フィードバックのシステムも作成されていた。

■翻訳インフラ革命時代の翻訳者に求められる素養
ツールに慣れ、うまく使いこなそう!
これまでIT翻訳業界のみで起きてきたことが急速に、一般翻訳にも波及すると予想される。年商1〜2億以下の仕事しか受けない翻訳会社は設備投資の余裕がなく、また、システムを導入したとしても人件費・コスト削減にまで落とし込むことができないかもしれない。しかし、技術翻訳、特許翻訳、医薬翻訳など分野がどうであれ、年商3〜5億円以上のビジネスを行っている翻訳会社の場合は、何らかの中間管理業務の自動化・省略化、翻訳メモリの再利用などの手段を講じない限り、生き残っていけないと断言できる。
このような時代の変化に、翻訳者も個人事業主として個別に対応していかなければならない。パソコンで訳文を打ちメールで納品する時代は、もちろんしばらく続くが、そういう工程で行われる仕事の件数は確実に減少していくだろう。
★翻訳メモリーツールに慣れよう!
まず、何らかの翻訳メモリーツールを自分で使ってみることだ。そしてメモリーツールの仕組みに慣れる必要がある。最初は不便と感じるだろうが、根気強く使って便利さを体感するところまでもっていけるとよい。翻訳メモリーツールはツールによって特徴があるが、業界でもっとも使われているSDL Trados はMicrosoft Word 上で作業するため、他のツールとはいくらかデザインが異なる。他のツールは、原文と訳文の対訳を左右対象に表記するデザインが多く、オンライン翻訳管理システムの翻訳環境にもこのパターンが踏襲されていることが多い。
★翻訳作業の省力化・品質管理のノウハウを独自に開発しよう!
翻訳メモリーツールへの習熟はツール指定、もしくはオンライン翻訳を求められたときのための対策だが、ツールの使い心地がよければそのツールを中心とした作業効率アップや品質管理のノウハウを独自に開拓するのがお勧め。Word やエディタなどカスタマイズしやすいソフトを中心としていろいろ工夫するのも手。以下のことにもチャレンジしてみよう。
【品質管理・作業効率アップのための戦略】
〜 できるところから始めよう 〜

□IME(日本語入力ソフト)の活用法を極める→タイピング

□辞書検索ソフトの活用

□パソコン内検索の活用

□Grep検索の実行

□インターネット検索エンジンのつかいこなしを極めよう

□エディタやワープロソフトのマクロ機能などの活用 →何度も行う簡単な作業は自動的に処理できるようにする

□デュアルディスプレイを導入しよう

□タイピングしやすいキーボードを選ぼう

|
|
■情報源
【翻訳メモリ―ツール、翻訳ワークフロー&ローカリゼーションツール】
*Lionbridge Logoport & Freeway
http://freeway.lionbridge.com/
*Alchemy CATALYST
http://www.xlsoft.com/jp/products/catalyst/index.html?gclid=CMCQqpXMlJcCFckrpAodkylu_A
*SDL Trados 関連ツール
http://www.sdl.com/jp/
*SDL Enterprise Technology
http://www.idiominc.com/en/
*Transit(翻訳メモリーツール)&STAR業務管理ツール
http://www.starjapan.co.jp/software/index.htm
*SATILA
http://transpc.cosmoshouse.com/satila/index.htm
【ベンダー・企業仕様 翻訳校正支援システム】
*acrolinx(R) IQ Suite
http://solutions.sunflare.com/
【用語統一管理ツール】
*秋桜舎「換の玉 置換ツール」
http://transpc.cosmoshouse.com/
*「Simply Terms」
翻訳者の井口耕二さんが上書翻訳のために作成した用語集を一括置換するためのツール。複数の訳語登録等が可能。
http://homepage2.nifty.com/buckeye/software/transtools.htm#simplyterms
【翻訳試験】
*「ソフトウェア翻訳士認定試験」/ITソフトウェアのマニュアルをSDL Trados を使って和訳する能力を図る試験
http://www.abes.co.jp/nintei/

◆こちらもご覧ください
・全国の通訳スクールが検索できます
http://www.tsuhon.jp/school/index.php
・会社の特徴がよくわかる翻訳会社・最新求人情報
http://www.tsuhon.jp/08_job_offer/index.html

『通訳・翻訳ジャーナル』編集部
http://www.tsuhon.jp/new/index.html