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  ■講師 山本ゆうじ

言語・翻訳コンサルタント。国際学校UWCイギリス校で学び、筑波大学を経て、シカゴ大学人文学修士号を取得。帰国後、フリーランスの実務翻訳者として独立。緻密な合理化ワークフローにより、実務翻訳業務、また大規模翻訳・文書管理/作成の講習やコンサルティングを行う。近著にグローバル・スタンダードの教育を紹介し、日本の教育を問い直す『世界に通じる学校・国際学校UWCの異文化理解教育』など。現在、『通訳・翻訳ジャーナル』に、翻訳者を対象としたツール使いこなしについての「デジタル翻訳者の道具箱」を連載中。
「秋桜舎」のウェブサイトは、http://transpc.cosmoshouse.com/
ブログも開設中。http://cosmoshouse.air-nifty.com/


第12回 翻訳ソフト活用の基本2―圧縮翻訳とはなにか

圧縮翻訳とは

今回は、翻訳ソフト活用の基本の2回目です。

私は合理的な翻訳の手法を、翻訳工学として体系化したいと考えています。「圧縮翻訳」は、その手法の一つです。  圧縮翻訳とは、原文内の似た要素を事前にまとめて翻訳することで、作業効率を向上する手法です。

圧縮翻訳とは。。

「原文内の似た要素」とは、「文」か「単語」のいずれかの単位です。

「似た文を何度も翻訳するのは時間のムダ」なので、「似た訳文を再利用する」のが翻訳メモリーです。

同様に、同じ単語を何度も翻訳するのもやっぱり時間のムダです。ここで用語集を使うのは一つの方法です。用語集を使えば、ある訳語が妥当かどうかを調べる手間を省くことができます。用語集が存在しないと、ある訳語を調べるのに、複数の翻訳者がそれぞれの労力を必要とします。また翻訳者が一人の場合でも、すべての訳語を自分の記憶だけに頼って訳するのは危険です。思い込みによって勘違い、表記の揺れ、入力ミスが生じます。企業の翻訳発注者の方に声を大にして強調したいのは、用語集を作らないで翻訳をすると、こういった危険性背負いこみ、費用と時間と労力のムダが発生する、ということです。用語集は一度作ればずっと使えるものです。先ほどの圧縮翻訳の「原文内の似た要素を事前にまとめて翻訳する」ということが、すなわち「用語集を作る」ということなのです。

 
受動的な用語管理と能動的な用語管理

用語集を使えば、効率的かつ正確に訳すことができるようになります。しかし翻訳という作業は「調べもの」だけでなく「訳文の入力」という作業がかなりの割合を占めます。正しいと分かっている訳語、保証付きの訳語であれば、それをいちいち入力するのは時間のムダです。

翻訳メモリーには用語集に基づく用語管理ツールがありますが、「決まった訳語があるのか」を、原則として一つ一つ人間の目で見て確認して、適用してゆく必要があります。「この言葉は必ずこのように訳される」ということが分かりきっている場合でも、手作業する必要があります。このため翻訳メモリーでの用語管理は、「受動的な用語管理」といえます。

そこで用語集をユーザーが作る辞書、つまりユーザー辞書に変換することで、翻訳ソフトを通じて入力まで自動化することができるわけです。翻訳ソフトの場合は、ユーザー辞書の用語が「自動的に」適用されるため、「能動的な用語管理」であるといえます。適切な訳語かどうかは確認する必要がありますが、常に手作業が必要な受動的な用語管理と比べて、おおいに効率的です。専門性の高い翻訳であるほど、専門用語の割合が増え、この作業の有効性が高まります。

ただし、ここにはいくつか問題があります。

* 用語集が正確かつ網羅的に作られているかどうか。
* 翻訳者が、翻訳ソフトの癖を手際よく補正できるか。
* 翻訳者が、翻訳ソフトの文法的解釈の誤りを的確に指摘できるか。

こういった問題をすべて解決するためには、「翻訳ソフトを買っておしまい」というわけにはいきません。専用のノウハウの蓄積が必要になります。

ユーザー辞書のカスタマイズの重要性

用語集といっても、ある企業固有、またはその企業の製品固有の用語でもない限り、たいていの専門用語はすでに翻訳ソフトのシステム辞書に登録されています。ただ、特定の文脈でどの専門用語を使うべきか、といったユーザー辞書のカスタマイズ(調整)は翻訳者が判断して行う必要があります。市販の翻訳ソフトではこの調整が不十分で、「この言葉はこのように訳せる」という翻訳者のノウハウが生かされていません。翻訳者が頭の中に持っている辞書が、市販の辞書とは違うのと同じことです。翻訳者のノウハウを、カスタマイズによってユーザー辞書に注入することで、使いものになる結果が得られるようになります。そして、特定の分野で翻訳を続ける限りは、用語集辞書と同じように、一度調整した結果を繰り返し使うことができます。
 
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