
始業時間は午前10時。だがその5分前には、早くもシャドウイング練習が始まる。この日の音声素材はオバマ大統領の就任演説。集中力を高めると同時に口の動きを滑らかにする効果的なウォーミングアップだ。
シャドウイングが終了すると、講師の奥山奈穂子先生は宿題だったトランスクリプション(英語音声を聞いて文字化すること)の講評を述べる。「○○さんは原稿を起こした後に文法的に正しいか確認するといいですよ」などと個別にアドバイスし、さらに全員に対してリスニング力アップのためのコツを伝えた。
「聴解力は、単語や慣用句、背景知識のレベルによっても大きく左右されます。今回は“mainstreaming”という言葉が出てきましたが、障害者についての“mainstreaming”を語っているのであれば、日本語なら“ノーマライゼーション”と言います。こういう単語はコンテクストと一緒に覚えておくと忘れにくいし、自分でも使うことができます。そうして知識をこつこつ積み上げていけば、必ず聴解力は上がっていきます」
続いては、前回の逐次通訳の講評。この講座では、受講生は自分の訳出を録音したテープを自宅で聞き直し、反省点や感想などのコメントを付けて提出することになっている。奥山先生は「憶測で訳した結果、事実関係を間違えている人が多かった」と訳出の総評を述べた後、コメントにもフィードバック。「名詞はメモし、動詞はリテンション(記憶)すること」と書いた受講生に「いい点に気づきましたね」と声をかけ、メモとリテンションの使い分けについて解説した。授業はまだ3回目だが、受講生たちはそれぞれに何かを掴み、着実に前進しているようだ。

聞き取る力を鍛錬する逐次通訳演習
事前準備のやり方も実践指導

その後、英→日の逐次通訳演習が2回に分けて行われた。1つ目は前回から取り組んでいる国際シンポジウムでのスピーチ。奥山先生は「同じところを2度流すので、最初は聞くだけ、2度目にメモを取ってください」と指示する。まずは集中して聞いて幹を捉え、その後で必要な細部をメモしなさい、ということだ。
受講生にとって〈情報を理解し記憶する〉ことはまだまだ難しい。いざ通訳しようとしても、情報を正しく取れなかったり、情報が抜け落ちたり。そんなとき、奥山先生はテープを再度流したりスクリプトを読み上げて表現や構文の解説をしたり、他の受講生に意見を求めたりしながら、正しい訳出へと導いていく。一語も訳出できなかった受講生に対しては、ポイントを分解してクラス全体で考えさせた後、「もう1回最初から訳してごらん」と再チャレンジを促す。再指名された受講生は、ときおり言葉につまりながらもすべてを訳出。逃げられない厳しさや緊張感の中で勉強するからこそ、実力がしっかり養われていく。
2つ目の素材(ある記念イベントにおける講演)を使った通訳演習では、事前に配布された資料の活用の仕方について指導がなされた。
「今回のようにスライドのコピーをもらった場合、私は訳しにくいところの訳を付けたり、時間があれば全訳してしまいます。そして現場では、コピーに目をやりながら通訳する。そうすれば、話の流れを楽に追えるし、通訳の精度もぐっと上がります」
また「組織名を別紙にリストアップし、名称を間違えずに言えるようにしておくことが大切」とも。初学者向けのクラスとはいえ、指導内容は極めて実践的だ。
2つの逐次演習の間にはサイトトランスレーション演習や単語テストも行われ、2時間の授業はとても充実したものだった。次回はニュース番組の逐次通訳に挑む。この日と同様、受講生たちは奥山先生の丁寧な指導で、壁にぶつかりながらもしっかりとそれを乗り越えていくに違いない。
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