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太田直子
広島県鞆の浦産1959年物。天理大学ロシア学科卒。上京後、早稲田の杜に潜り込み露文研究者を志すも、あっさり挫折して字幕の森へ。趣味は「読む・書く・飲む」。最近の劇場公開物は『アリス・クリードの失踪』『ラビット・ホール』ほか。2009年夏、映画翻訳家協会の会長になってしまい悶絶中。 |
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其の参五・・「計画停電の夜に」

『停電の夜に』は、米国の気鋭作家ジュンバ・ラヒリの短編集です。繊細な人間描写と、そこはかとないユーモア。さらに両親がインド出身ゆえか作品にもインドと欧米の文化が混じり合い、独特の味わいを添えています。文庫で手に入るので興味のある方は読んでみてください。ちなみに長編『その名にちなんで』は映画化され、わたしが字幕をつけています。このDVDもよろしくー!と軽く宣伝しつつ、今回のお題は「停電」です。
本誌読者の皆様の中にも、今度の震災で大変な思いをしている方が多いのではないでしょうか。少しでも日々の暮らしやお気持ちが楽になりますように。
東京都在住のわたしは本震当日、本とビデオの山が崩落しただけで済みました。まあこれは日頃のずぼらが主因。これを機に心を入れ替えて整理整頓に努めようと思います。
困ったのは、その後の計画停電でした。字幕屋はデッキもパソコンも使えないとなるとお手上げです。とりあえず手書きで仮の原稿を作り、あとでパソコン入力という手もありますが、夜はどうしようもありません。
そこで無駄な抵抗はやめ、仕事をほうり出してキャンドルナイトを楽しむことにしました。ろうそくは買いに走らなくても、33年前から引き出しにあります。むかし急な停電は常に想定内だったので、大学で独り暮らしを始めたとき、洗面器や鍋と同様に必需品として買ってあったのでした。整理整頓術ではよく「1年使わなかったものは処
分してしまえ」と言いますが、こういうものは大事に取っておくべきですね。

夜7時に室内が真っ暗になり、待ってましたとろうそくに点灯。なかなかおつなものです。でもやることがなくて、すぐに退屈してしまいました。『停電の夜に』をまねて告白ゲームでもしたかったのですが、悲しいかな相手がいません。
カーテンを開けると室内が少し明るくなりました。防犯防災のため強烈な光を放つ投光車が走り回り、ほんの数キロ先の街には煌々と電灯がついているせいです。しばしそんな光景を窓辺で眺めたあと、ろうそくの灯でそのときの心情を日記に綴り始めました。
上記プロフィールに「趣味は読む書く飲む」とあるごとく、わたしはどんな状況下でも何かを書かずにはいられないようです。非常持ち出し袋には「メモ帳とペン」を追加しました。食料や水や衣類といった現実的な必須アイテムとは別の、「生きるよすが」のようなものも大切だと感じたのです。
震災後は映画の上映も、電力の問題や内容の問題で中止や延期が相次いでいます。わたしが翻訳した『世界侵略 ロサンゼルス最終決戦』も公開延期となりました。むやみな自粛は感心しませんが、これは「海から敵が攻めてきて、沿岸の街が廃墟と化す」という話なので仕方ありません。
よい映画をたくさんの人に観てもらおうと奮闘している各地のミニシアターや自主上映団体までが、電力不足や会場不足で活動がままならないらしく胸が痛みます。映画は撮るのも映すのも(ついでに字幕をつけるのも)電気なしにはできないのだなあ、と改めて思いました。
とはいえ、よい映画を観ることも「生きるよすが」となるはず。文学も音楽も芸術全般がパンと水に匹敵する力を持っている、と言ったら不遜でしょうか。わたしはそう信じています。 |
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